巨大な水

通り過ぎるものすべて

『DOGMAN ドッグマン』(2023)について

ネタバレを含みます。

 

 

 

 

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台詞も画面の構図もつまらないな……だったのは最近観てた映画のせいでサスペンス脳になってたのが半分だと思うが、本当に陳腐だったのでは?も半分ある

 

働き口をみつけた最初のショーの場面でオーナーが涙ぐむほどの感動を全く覚えられず、そこで輝きがないんだったら、主人公のそこまでの演劇やら装いやらの説明全然無駄じゃねぇか、でがっかりもした  依頼されてギャングを脅迫したのもダークヒーロー行為じゃなくて普通にそれまで依頼主から受けた恩恵が下敷きになっていたのでは?だし、ギャングから報復されるのもそこまでのドッグマンの穴はあるけど残忍な魅力がダメになってた気が このギャングからの報復に関しては約束は守れよ!と叫んでいたので子供のまま大人になってしまったね、で解決できると言えばそう

 

犬たちは本当に強くて賢くて可愛くて最高だったし、結局唯一、犬は人間のもつ美徳を全部もってる……て台詞を実現したい映画だったのかも だとしたらそれ以外の要素に中途半端に手を出してあんま成功してないって風に見えてしまった 暴力も、犬がギャングを陥れたり主人を守るために食人したりするのは爽快だが、やるならもっとふりきってもらった方が良かったし……

 

あとここらへんは詳しくないのでよく分からないが、犬に演技させるのってそもそもどうなの?みたいな話ってあるのだろうか 落下の解剖学とかも犬大活躍らしく気になる もちろん素晴らしい待遇をうけたお犬さんたちだし、映画本編も酷い目に遭ったりしていなくてホッとしたが それはそれとして犬の忠誠心と刷り込みと自由意志みたいなのもぼやかしてたのはあんま評価できない理由の一つか? これは自分が犬と暮らす人間というものに対して全然解像度高くないので何も言えない



最近見た映画について

短文の感想です。ネタバレを含みます。

 

 

 

 

 


オールド・ボーイ』(2003)
パク・チャヌク作品は時系列バラバラに見てるが、人生はその中に飛び込んでくる理不尽によって、紙切れのように、抗いようもなく、強烈に左右される、そういう話をずっとやってきたのかな~とぼやっと思った  
そしてどうしようもない理不尽に吹き飛ばされる人々を描きつつも、ヒューマンエラーである女性や子ども、虐げられた人間へ降りかかる理不尽に対しては物凄く強い怒りをもって描いてそうなのが自分が監督の作品を好きな理由でもある

 

『ロブスター』(2015)
オールド・ボーイの後に続けて見たので脳への負荷実験だった この画面覚えてたいな~ってシーンがいくつかあったのと、レア・セドゥが好きすぎるので喋るたびにニッコニコになってた、まあ最悪の支配欲こじらせ正当化人間の役だったけど
山もホテルも対比されているようでいて違った形で社会構造的にも見た目的にも秩序があり、権力はどこにいようが人間が作り出すものですよね~て話をスマートにやりつつ恋愛も絡めてたの、感心した

 

スタンド・バイ・ミー』(1986)
ただ泣ける映画というだけで名作にされてるんだろ……とかなり斜に構えてたけど当然のように素晴らしい作品で態度を後悔した 格差と友情の話をする二人の男の子、その間でだけ交わされた大事な約束、めちゃくちゃホモソの話でもあったので嫌さもありつつ、スタンド・バイ・ミーって言葉通りケアするためには側にいないといけない、側にいるだけで良いって話だったんだ いや本当、普通に感動していた

 

『マイ・プライベート・アイダホ』(1991)
首輪をつけて、腕にトゲと革の首輪みたいなブレスレットつけてて、それであの上品さを保ち続けられるキアヌ・リーヴスの佇まいの強さ 
ザ・シンプソンズっぽい子供向けアニメをじーっと見つめてから男に抱かれに行くマイクとか、焚火の前で分んないこと全部打ち明けちゃうマイクとか、とにかく子どもみたいに純粋なのに大人にならざるを得なくて、そしてその過程や結末で全部奪われるキャラが好きなんだな自分は フェイホンさんのこと一生忘れられませんし
マイクはいつも突然意識をなくしてその度に死にかけている訳ですが、スコットが最初から最後までずっと、突然眠りに落ちたマイクに対して(記憶確かか分からん)苛立ったり面倒がったりせず、かといって恩着せがましくもなく当然のこととして彼を回収していたの、はちゃめちゃに好きだった マティアス&マキシムも同じこと思ってたしそれを利用してましたね

 

ファイト・クラブ』(1999)
画面の作りかたが2023年の作品みたいで、1999年は嘘では?!だった 洗練も技術もめちゃくちゃ最近の映画を見ている気分だったが……
お話が面白いし画面おしゃれだし俳優陣は最高だったが、人権周りの価値観が終ってたのでまあトントンだった、わざとやってるんだろうな~てとことわざとじゃなさそうなところあったんで
そりゃ妄想の中で理想の自分を作るならルックスはブラピだろうな、分かるよ 色んな暴力シーンがあってハッピーだったが、小首を傾げたりのぞき込んでくるブラピの奥にジョー・ブラックの時のような無垢な神様の表情が浮かんでいてそれがかなり良かった 好みが一貫している

 

『エレファント』(2003)
ずっと静かに、淡々と若者に起こる問題を、怒りを感じさせることすらせずに描いてて上手だったな おそらく犯人だと思われる少年がガンゲームをやってる、みたいなのはこちら側がそうあって欲しいと望むことでもあり、リアリティラインを超えていないことでもあり、塩梅がうまい 犯人は人殺しをゲームだと思う残虐な人間であってほしいなんてお前らの勝手な期待と偏見だろ?という態度もうっすら入ってるのが
最初に死ぬのがキャサリンだとは思わなかったな、彼女もまたアウトサイダーだったのに

 

『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』(1997)
最高の映画 人生ベスト映画に入れましょうね……

 

『グッド・ウィル・ハンティング』(1997)
かなり良かった スカイラーはこれまで通ってきたフィクションの人間達の中でもかなり上位に入る良い女だったし、チャッキーの台詞は本当にスマートだった

 

リリイ・シュシュのすべて』(2001)
最悪のジェンガが起きているとかそういうのではなくて、肌を直接舐め続けられて目を強制的に見開かされてるようなぬるくて拷問的な最悪さがずっとあって、それを青春に重ねるの、リアリティ
撮りたいもの撮ってんだな~が最終的な感想 暴力がはじまるのもおわるのも瞬きだよ、とかそんなこと分かってんだよ今更言われなくても、と思いもしたが、この映画によって救われるものもあるんだろうな 鉄線に絡まったゴテゴテにキャラのついたストラップと滴る血、はかなり良い画面だった

 

ゴーン・ガール』(2014)
こわ~い女が暴れまくってるけど旦那もしっかりこわい男で良かった 血しぶきシーン、エロティックさとかじゃなくてただただここまでやれるこの女、怖すぎませんか?という演出になってるように感じられて少し信頼

 

『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』(2023)
ストーリーに整合性とか人との仲が深まる描写に説得力とか欲しいので、水木とゲゲ郎の間にそれあんま無くなかったか?と思ってあんまり乗れなかった 
それはそれとして完全に人外キラーな性格と能力と覚悟をもった水木と、残忍ぶるにはあまりにも善性が強い人外のゲゲ郎、沙代ちゃんが死んだあと本当にほぼ余韻が無く二人だけの戦に赴いたの、結局この二人の間に女も人間も立ち入る隙はありませんでしたを象徴してて怖かった 水木とかいう男、怖すぎ ストーリーに補完したい隙間があるから二次創作が流行るのかな

 

パルプ・フィクション』(1994)
レザボア・ドックスでちょっとタランティーノ作品気になるな……となり、見て、完全にハマった このあといくつか見てハマらないものもあり、結局この監督のどこが好きなのか言語化することになるが、そんなんまだ分かってないので暴力と会話と魅力的な俳優たちと音楽が一体となって完璧を作ってることに大興奮してるだけ 面白かったな……初見では無くなってしまったので二度と同じ経験ができないのが悲しい

 

イングロリアス・バスターズ』(2009)
ベスト映画に入る、ラスト以外は 本当に、彼の監督作品に求めてるもの全部もらってハッピー!となってたけど締め方は刺さらなかったので自分の中の評価がそこまで上がらなかった

 

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)
まあ本当に少しも面白くなくて、ぎりぎり最後の大虐殺でタランティーノ作品に求めている暴力成分が補充できたな……感 シネフィルとしての彼には全く関心がないので面白くなかったのでしょう、昔見たものの繰り返しとか知識によるマウントとか味わいたいなら面白かったのかもしれない 流石に口が悪い

 

『CURE』(1997)
日本映画、どうしても発音の不自然さみたいなのが気になってハマれない部分がどうしても出てくるけど、スワロウテイルとこれはそんなん超えた良さで胸ぐら掴まれてハイ……ありがとう
侮られた人間の屈辱を思い出させるcure、突然フェミニズムっぽいこと始まってびっくりしたしこういう「医療」の話を真面目に、ホラーにのせてやってるの凄いな

 

テルマ&ルイーズ』(1991)
奇跡的にここまで一度も見ずに人生を過ごしてきたが、期待しすぎたせいか割と肩透かしで残念だった 
というか別に全然マジで良い映画なんだが、どんな事情があって、彼女の境遇を鑑みてどんなに許されるべきことだとしても、テルマが心底ルイーズを傷つけるような愚かな失敗をしたことが最後まで許せなくて駄目でしたね ルイーズが許したとしても
ガソリン大爆発大爽快のシーンとか、行って!踏んで!とか本当に心臓をぶっちぎる良さがあったけど、全部テルマの失敗のせいやんけ…がちらついたので というか本当はブラピの誘惑のせいで、となるとオム・ファタールの映画だったんだな

 

ヘイトフル・エイト』(2015)
短期間でタランティーノ作品見すぎてなんかハイになってる感はあったが、レザボアの最終進化みたいな印象 長台詞で掌握される場、一瞬一瞬で移り変わる場の権力関係、銃で殺される人々、血しぶき、予想外の結末、みたいな 満足でした

 

『スワロウテイル』(1996)について

短文の羅列です。ネタバレを含みます。




 

 

 

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凄いシーンだな……ってところがいくつかあってそれが脳に焼き付いているが、ストーリー全体として好みって感じではなく、やっぱり少しでも話に整合性が無いとか感情の論理の説明が足りないとか思っちゃうと最高評価にはならないんだな

 

全部無秩序でだけど笑い合って生きることができる調和が彼らの中にだけはあって、その生き方は彼らにとって正しすぎるものだった

 

ドリセキと言ってニヤリと笑うリン、かつて夢をかなえた場所で札束の中に倒れ込むフェイホン、死の直前にアゲハ蝶が確かに空に飛んで行ったことを思い返すフェイホン、あたりが本当に刻み込まれた 最初グリコはどんな悲惨な死に方するんだろうと思ってたけど、女じゃなくて男が死んだのは構造的に面白かった

 

こんなにずっと少年の顔つきを、目を保ったままのフェイホン、そりゃこんな世界じゃ生きていけないし何時かこうやって制度や社会に殺されることにはなってしまったんだろう、それでもこんな風に死ぬこと、あったかなぁと思わされる 天国に行けるくらい魂が純粋で幼児みたいな素直さを持っていたのに大人になってしまったから、ああなるしかなかったのかな 警察がフェイホンを拷問するシーンはこれを作った人間の制度に対するめちゃくちゃな怒りを感じられて大変良かった

 

ランドセルに貯められる偽札とか、子供同士で立派な社会の上下関係を築いてる姿とか 確かにこれは夢中になる人がいるのもわかる カタルシスがある

 

やっぱあんなに輝いてたフェイホンの目が血まみれのベッドの上で濁ってるシーン、すさまじかった じわじわと、なんでこんな風に死なないといけなかったんだろうねって悲しみがこみあげてくる

『名もなき野良犬の輪舞』(2017)について

かなり良かったです。ネタバレを含みます。

 

 

 

 

 

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とりあえず見終わったあと助けてくれ~となった、全部ぶち壊して二人ともお互いの願いを叶えやがった……そして私たちは置いていかれた

 

監獄の調理場で行われる『最後の晩餐』、刑務官と囚人を隔てる柱という線、油で焼かれて皮膚ごと溶ける入れ墨、動物的な囚人たちの葬列行進、とにかく計算された画面にポップでロックな音楽が合わさってしょっぱなからなんだこれ?最高すぎる、となった、結局こういう視覚をくすぐるようなものを映画でしか得られないと思ってるからまあ刺さる

 

思いっきり『レザボア・ドックス』のオマージュやってたけど邦題はそれを意識してこうなったのか?原題そのまま邦訳すると『不汗党:悪いやつらの世界』らしい 『永遠に僕のもの』とかもだけど邦題になるとやたらロマンスが強まるのは何なんだろう まあこの映画に関してはそれで良いと思うけど……

 

子犬がかみつくようなじゃれ合いやら、どんな色がのってるかお互いに自覚して見つめ合うも言葉は交わさないところやら、愛だ、ってとこはありつつこれは最初から破滅することが分かっているものでもあって、じゃあどうやって壊れていくんですかって話をここまで飽きさせずに最後の最後まで引っ張ってくれた力量に感謝 作品に突き飛ばされるような感覚が好きで、でもずっと突き飛ばし続けたらつまらなくなる、『別れる決心』はそのバランスがありえないほど精密だったけどこの作品も似たような部分がある気がした ちょっと湿度が高いのは決定的に違う点で、それがこの作品のロマンス感を強めてるのかな~とも

 

ジェホのいつでも乾いていて突き飛ばすような笑い声好きだな~~そういう風な関係しか築けないんでしょうきっと

 

「出来事は後ろからやってくる」、「お前はもっと振り向いて生きろよ」これ、これすぎる ジェホの、ヒョンスが振り向いた先、母をひき殺したトラックの向こう側に俺の顔があるのを見て俺を軽蔑してくれ、俺を罰してくれっていう告解じゃん 所詮野良犬、愛には逆らえないんだ そういう人間的な弱さがあるんだ………… あと普通に相手の母親を奪うことでその情を自分に向けさせたっていう構造、男性同性愛(監督が普通に二人の間には感情的な愛があるって公言してるらしい)を描く上で衝撃的すぎる

 

ヒョンスが真相を知るまでのこの、展開、面白すぎる 隠蔽されているのは母親の死の裏に誰がいたかというシンプルな事実、そして陣営も二つしかないのにここまで物語を引っ張ってこれるの、上手い

 

お前は惑わされてるんだ、って言われるとことか最初からお前を殺すべきだったってジェホが震えるところとか、こういう言葉によって二人の関係の間に勝手に付与される湿度はちょっと邪魔だったかなと思うけど、まあそれは自分の好みな気がする

 

ジェホ、人生に飽き飽きしてんだ やっぱ終わりたがってるじゃないか~最低 最悪 ジェホは何人も殺したのに、ヒョンスの綺麗な手が殺すのは係長とジェホ本人だけなんすか

 

俺たちを捨てたもの、俺たちを舐めたもの、俺たちを縛ってきたもの全部互いでぶち壊そうって話だったのかもしかしてこれ 静かに座ってるヒョンスの周りでジェホの手によって死んでいく公安の人間、流石に良すぎ 献身だなジェホの

 

ヒョンスは自分を捨てた、裏切ったもの全部ぶち壊せたし、ジェホはそれを手助けした後奥底の望み通りヒョンスの手で殺された 文字通り手で 最初に悪漢を殴り飛ばしてジェホが魅了された手に ほえ~~ ヒョンスの顔つきからして明らかに一変してて、最後にタイトルの横に並ぶのが別人のように見えた

 

いや~~本気で面白かった、途中までよくあるヤクザBLをBLって打ち出さずにやってる映画ですかとか思ってたが、普通にそういう邪推も期待も裏切って二人が手を取り合って全部ぶち壊すのを遠くで眺めさせられることになった だから輪舞か はあ…………良かったです

『親切なクムジャさん』(2005)について

ネタバレを含みます。

 

 

 

 

 

 

 

 

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良すぎて本当にもう…………最初から最後まで喜びのあまり笑い続けてたし、テンポも見せられるものも物語の内容も全部自分好みだった。クムジャさんの顔が実際に光っていたり、ペク先生と犬が合体してたりするCGの唐突過ぎる使い方も、妙に戯画化された伝道師もコメディなのに不気味で、JSAの時のユーモアは追い詰められた人間の悲哀と共に出てくるものだったけどこっちは狂気に満たされた人間の脳内に生じる可笑しい妄想という感じで、はぁ~~上手いですね……。

 

拳銃の飾りを見た時の、「どんなものでも綺麗じゃなきゃだめ」一番良い台詞だった。異国で娘の引き取り手と無邪気に戯れる笑顔と同居する、真っ赤なアイシャドウを塗った気だるげな女、最後までどの瞬間も綺麗であればあるほど彼女が背負わざるをえなかった最悪なものどもが引き立って、それを引き立ってると思う自分達もグロテスクなんだな~。

 

ソン・ガンホとシン・ハギュンがさらっと出てきた時は嬉しいとかとは別に普通に面白くて笑ってしまった。JSAと復讐者に憐みを、の別の世界線ってやつですね、見せてくれてありがとう、結末はほぼ変わらないけど。

 

ペク先生が気絶させられてる横にジェニーが眠っているのとか、横並びになった被害者遺族たちとか、進化したカット、さらに洗練されてこれがお嬢さんとか別れる決心になっていくんだ、を時代をさかのぼって知れたのは面白かった。このストーリーに芸術性の高いカットをぶち込んでこれる感覚、凄い。と言うか本当にずっと褒めてるけどマジで良かったんですよね……。

 

一番感動したというかこの映画満点だわ、となったのは復讐の果たし方で、全然彼女が殺して終わって罪を償うのかなと適当に考えてたら遺族を引き連れてきてそっからまだドラマが始まるっていう、凄くないかこれ?だからファムファタールになる女が人殺しをするのを描く映画じゃなくて、児童誘拐事件に対する怒りがちゃんと満ちてるってのが分かった瞬間がほんとすごかったな……もうこれ以上のものはないかもしれないとか思った。

 

返り血だけじゃない血で赤く染まったクムジャさんはもう白く生きることはできないけど、それでもケーキになんども顔を突っ込むんですよね、魂は漂白されないけど彼女はこれからも多分生きていくんだろうな、が見えるラスト、最高だった。これ以上見ていないパク・チャヌク作品が減るのが惜しい~ずっと見てたい~~て初めて映画に対して抱く感想でした。

 

『JSA』(2000)について

ネタバレを含みます。

 

 

 

 


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中盤の展開というか、どう考えても真実を明かす方が最悪に突っ込んでいくのにいやに女性が動き続けるのでいや~まあ最後までやってくれるかなと思ったらちゃんとスヒョクが死んでやりやがった……という気持ちになったな~。戦争とか軟禁とか極限状態にある人間にコミカルさが出てくる、というかそうしないとやっていけないところもあるの、『ジョジョ・ラビット』とかもそうだったけど、現実との断絶具合に関してはものすごい厳しさを見せてくるのがパク・チャヌク作品の好きな部分だと再認識した。

 

ストーリー重視で見るタイプではあるけど、正直構図のセンスの良さがあるだけで良い映画!と思いがちなんで今回もヒューマンドラマ寄りすぎないか~と感じてたところに、いくつもの名カットが挟まれてよし!良い映画!!て逆転しましたね。南北の境界線に立つ建物と傘を重ねる所とか、真っ逆さまに落ちる男と目が合うとか……あと単純に正面からの顔のアップが多くてこれをうまく使えるの流石だった。

 

女性(ソフィー?)は真実を明かそうとするという役割を果たしているだけの人間で、普通に見てた分にはこの人何をしてくれてるんですか??最悪すぎる……と思ってたけど、別にソフィーのその役割を正当化したり擁護するような展開が無かったからそうやってハ??枠として消費されることを前提としてたのかな?最後にスヒョクの証言がひっくり返ったのか、ギョンピルの記憶違いなのか分からないがスヒョクを死に追いやる言葉が発せられたシーンはかなり良かった。最後しっかり女性がドミノを自分の手で倒してしまった責任を描いてるっぽかったので。

 

ラストシーンの写真の演出も、ポピュラー映画の終わり方としての最高さと、でもこういう形でしか四人の写真は残らなかったんだなっていう深い悲哀が重ねってておわ~だった。そういうセンスって監督が共同脚本とはいえ、誰を称賛すればいいものなんだろう。まだまだパク・チャヌク作品は残ってるのでどんどん見ていきたい。

 

『市子』(2023)について

今年見た映画の中で一番悪かった〜みたいな批判的な内容です。ネタバレを含みます。

 

 

 

 


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〇形式
主演俳優の演技がとにかく凄まじくて、良いというのは映画館で見てよかったな〜とギリギリなったけどそれ以外の人の演技にずっと違和感があった。声の出し方?抑揚の付け方?みたいなところが気になって集中できず、最近海外の映画ばかり見ていたのも原因だとはいえ肌に合わないまま終わってしまったな……だった。他の邦画やらドラマやらでは感じない違和感だったのではっきりとして理由は分からないのもモヤつくな〜割と演技を褒めてる評価が多いだけに。
あと台詞が全体的に繋がりがない、ここでこう言わせたらカッコ良い/感動的だからこう言わせます!というのが透けて見えて自然さがないところが割とあったのも気になってしまった。


◯舞台装置?
舞台装置という言語化が適切なのか分からないが、市子以外のキャラクターが全員市子という人間を照らすためだけの装置として扱われてて厚みが無いとも感じてしまったな〜でもそれは原題「川辺市子のために」を考えると全然頷けるとこではあるんだけど、やるなら徹底的にやるべきで、微妙に長谷川くんに情を持たせようとする演出みたいなのがあったからこれってもしかして技量のせいで市子以外の人間が薄っぺらくなったのか?となってた。
市子から見れば映画に登場するあらゆる人間が突然彼女の人生に現れては身勝手な感情を押し付けてくる存在なので、いや本当に別にいいんだけど、北くんが完全に市子に狂ってしまってるのとかは流石に突然すぎたのでは?それが市子にとっての怖さを表現するためだとしても、わざわざ北くんの部屋にたくさんの観賞魚たちがいるところとかガリガリくんを1人で食べていることとかを描写してるのに北くんに「市子に狂ってしまった」以外の人間性が付与されないのは技量が足りなかったんじゃないか……。


〇表象の仕方
これも結局、社会問題やら事件やらどうしようもできない悲惨さを記号として扱ってしまってるのでは…というのがこの映画が気に入らなかった一番の理由かもしれない。最近は(かなり前からやってる人はやってるんだろう)こういう苦しみやら最悪さを記号化して映画のトピックにしてって普通に搾取では?という批評が割とあると思うけど、今回も市子は属性を散々付与された挙句死と別れを振り撒いて去っていくファム・ファタール的描かれ方をしてて、もうそういうのやってる場合じゃなくないですか?
あと月子の視点がほぼなかったことをスルーしてよく絶賛できるな?という、いややっぱりシンプルに怒りがある。月子が市子の悲惨さの一部になるためには月子のパーソナリティや視点が見えたらダメだから明らかにモノとして扱われて、介護に疲れた市子との対峙のシーンで突然人間であることを殊更に強調されて、本当にそんな扱いで良いと思ってるのか?あの映画をみてそこに違和感でも怒りでも覚えない人間が市子の凄まじい人生に打ちのめされたって、それ本当に打ちのめされただけでその先になんもないだろ?とか、うーーん。


とにかく見た後の違和感と怒りとモヤモヤがすごくて別の映画で口直ししたいと思わされたのは久しぶりだった、まあこういう映画経験もあるよな……。それはそれとしてやはり月子の描き方の問題は本当に大きいと思うので、そこにちゃんと言及した批判がもっとたくさん出てくるべき〜と思う。