巨大な水

通り過ぎるものすべて

『ガタカ』(1997)について

ネタバレを含みます。

 

 

 

 

 

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〇世界観
SF含むファンタジーは世界観で勝っていればそれでいいと思っているので、まあ素晴らしかった。当時の技術的に大部分がアナログで一々採血採尿が入り込んでくることでよりグロテスクな社会になってましたね……ディストピアを描くことによって現代社会のクソさを照らすのは常套手段とはいえ、「写真など誰も見やしない。」が象徴するように会社に溶け込んでいるヴィンセントと見た目の印象を誤魔化すことにも繋がってた分厚いメガネのくだりは痺れた。

 

〇画面、音楽、台詞
タバコの煙ワインに入れるシーン、車いすの青年と立ち上がれないまま身を投げ出している青年、海辺に佇むガラス張りのホテル、視覚的な喜びがちゃんとあって、音楽もかなり良くて、序盤で既に完璧な映画では?の予感があった。あと一々取り上げられないけど台詞回し、特にユージーンとヴィンセントの間の、信頼関係に裏付けられた皮肉でもあり、互いを傷つける事実でもあるみたいな言葉の応酬は素晴らしかった。

 

〇導線
「僕は誰の救いも必要としていない」で弟に対して感情が爆発し、アイリーンや検査技師、そしてユージーンの特大の善性に触れて宇宙へ旅立つヴィンセント、露悪的な社会において善性は輝くから感動するのは当たり前なんである種教科書的な進め方でもあるけど、まあチョロいので普通に感動した。100分の尺の中で同じ構図の変奏を前半と後半でしっかり決めてくるのも「映画あるあるだ~」と少し穿った見方をしてしまったが、ちゃんと鑑賞者の感情の導線をコントロールするのに成功してたので全然良かった。長いだけの映画は見習おうね……。

 

〇ユージー
ユージーン、マジか……まあまあな放心状態になったが、すぐに二回目を見ることでそこまでの傷にはならなかった、よく考えてみると彼は生きることに登場時点から絶望し続けていたので帰結としても納得は一応できるし……。こいつの人生なんだったんですかだけど、他者からは認められ続けても自分では価値を感じることができなかった身体はヴィンセントに遺伝子を提供するという役割を得て、自分の名前はある程度後世に残る金メダル相当の栄誉を得た、それならもう良かったのかもしれない。まあ必ずしも生きることが希望ではないので、死だけが彼に残された自由だった側面はある。

あの境遇に対して怒りを燃やし続けて、宇宙という夢を臆面なく話せる鷹揚さをもててたヴィンセント、諦めないことの素晴らしさみたいな文脈よりも、怒りと執念は何かを変革しうる希望だったし、ユージーンもまあ世界と自分の遺伝子には怒ってただろうからそこで連帯できたのかなと想像した。ラストのロケットの炎は地球にいるユージーンの身体と遺伝子を焼き尽くす炎だったのとか、上手すぎだったな~感心の後に感動も伴う、良い映画だった。