巨大な水

通り過ぎるものすべて

『名もなき野良犬の輪舞』(2017)について

かなり良かったです。ネタバレを含みます。

 

 

 

 

 

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とりあえず見終わったあと助けてくれ~となった、全部ぶち壊して二人ともお互いの願いを叶えやがった……そして私たちは置いていかれた

 

監獄の調理場で行われる『最後の晩餐』、刑務官と囚人を隔てる柱という線、油で焼かれて皮膚ごと溶ける入れ墨、動物的な囚人たちの葬列行進、とにかく計算された画面にポップでロックな音楽が合わさってしょっぱなからなんだこれ?最高すぎる、となった、結局こういう視覚をくすぐるようなものを映画でしか得られないと思ってるからまあ刺さる

 

思いっきり『レザボア・ドックス』のオマージュやってたけど邦題はそれを意識してこうなったのか?原題そのまま邦訳すると『不汗党:悪いやつらの世界』らしい 『永遠に僕のもの』とかもだけど邦題になるとやたらロマンスが強まるのは何なんだろう まあこの映画に関してはそれで良いと思うけど……

 

子犬がかみつくようなじゃれ合いやら、どんな色がのってるかお互いに自覚して見つめ合うも言葉は交わさないところやら、愛だ、ってとこはありつつこれは最初から破滅することが分かっているものでもあって、じゃあどうやって壊れていくんですかって話をここまで飽きさせずに最後の最後まで引っ張ってくれた力量に感謝 作品に突き飛ばされるような感覚が好きで、でもずっと突き飛ばし続けたらつまらなくなる、『別れる決心』はそのバランスがありえないほど精密だったけどこの作品も似たような部分がある気がした ちょっと湿度が高いのは決定的に違う点で、それがこの作品のロマンス感を強めてるのかな~とも

 

ジェホのいつでも乾いていて突き飛ばすような笑い声好きだな~~そういう風な関係しか築けないんでしょうきっと

 

「出来事は後ろからやってくる」、「お前はもっと振り向いて生きろよ」これ、これすぎる ジェホの、ヒョンスが振り向いた先、母をひき殺したトラックの向こう側に俺の顔があるのを見て俺を軽蔑してくれ、俺を罰してくれっていう告解じゃん 所詮野良犬、愛には逆らえないんだ そういう人間的な弱さがあるんだ………… あと普通に相手の母親を奪うことでその情を自分に向けさせたっていう構造、男性同性愛(監督が普通に二人の間には感情的な愛があるって公言してるらしい)を描く上で衝撃的すぎる

 

ヒョンスが真相を知るまでのこの、展開、面白すぎる 隠蔽されているのは母親の死の裏に誰がいたかというシンプルな事実、そして陣営も二つしかないのにここまで物語を引っ張ってこれるの、上手い

 

お前は惑わされてるんだ、って言われるとことか最初からお前を殺すべきだったってジェホが震えるところとか、こういう言葉によって二人の関係の間に勝手に付与される湿度はちょっと邪魔だったかなと思うけど、まあそれは自分の好みな気がする

 

ジェホ、人生に飽き飽きしてんだ やっぱ終わりたがってるじゃないか~最低 最悪 ジェホは何人も殺したのに、ヒョンスの綺麗な手が殺すのは係長とジェホ本人だけなんすか

 

俺たちを捨てたもの、俺たちを舐めたもの、俺たちを縛ってきたもの全部互いでぶち壊そうって話だったのかもしかしてこれ 静かに座ってるヒョンスの周りでジェホの手によって死んでいく公安の人間、流石に良すぎ 献身だなジェホの

 

ヒョンスは自分を捨てた、裏切ったもの全部ぶち壊せたし、ジェホはそれを手助けした後奥底の望み通りヒョンスの手で殺された 文字通り手で 最初に悪漢を殴り飛ばしてジェホが魅了された手に ほえ~~ ヒョンスの顔つきからして明らかに一変してて、最後にタイトルの横に並ぶのが別人のように見えた

 

いや~~本気で面白かった、途中までよくあるヤクザBLをBLって打ち出さずにやってる映画ですかとか思ってたが、普通にそういう邪推も期待も裏切って二人が手を取り合って全部ぶち壊すのを遠くで眺めさせられることになった だから輪舞か はあ…………良かったです