巨大な水

通り過ぎるものすべて

『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』(2023)について

1を友達から布教してもらい、めちゃくちゃ面白かったので即予約し、吹替で見てきた(1を吹替で見たというのが理由)。ネタバレを含みます。

 

 

 

 


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○ストーリー
スパイダーマンはこのシリーズの一作目と『アメイジングスパイダーマン』しか見ていないが、ストーリーの奇想天外さとか緻密さというよりは、キャラへの思い入れを強くさせてからそいつらを苦しい目に合わせることで感情のジェットコースターを味わせる傾向にあるのでは?と思った。上手く言語化できていないが、誰が仲間になるとかここで負けるとか勝つとかの筋は大体予想できるが、キャラクターの背景や造形に力を入れることでそこの予想通りさを上回る楽しさを与えてくる感じ。

そしてその思惑通りキャラクターそれぞれの魅力に落ちてめちゃくちゃ感情を振り回されたので、鑑賞体験として満足だったのだが、英雄の素質みたいなところに説明がないのは自分が消費してきたコンテンツと比較して少し物足りない部分だった(アメコミ、マーベル系全体の傾向なのだろうか?マーベル全く見てないから比較できないが…)。たまたま放射性の蜘蛛に噛まれた「だけ」の人間は殺されかけてる場面でジョークは言えないし、普通に体がすくむはずだし。もちろんヒーローになってから積み重ねられた日々というものがあるんだろうけど、その日々が描写されたとしても、それだけでは説明のつかない素質のようなものをそれぞれのスパイダーバースのヒーローが持っていた気がする。結局選ばれし人間は最初から選ばれてるんだよな〜を覆すほど、人間的な弱さとかが説得的に表出されてるわけじゃなかったと思う。まあそれを狙ってるわけではないので全然良いのだが。

 

○画面
ものすごくマネーと時間と技術を感じる画面だった(1も本当に素晴らしかったが、映画館で見たことでかなり圧倒的な画面の経験になっていた)。スタイリッシュという言葉が最も似合う構成、そこまで描き込んでる画面を1秒もたたずに転換するの??の連続、満足感が凄いが、技術者の方の労働状況がおそらくかなりシビアなものになっていたのではないかと思うので続きはゆっくり待ちたい。

 

○ミゲル・オハラ
ミ、ミゲル・オハラ…………お前のようなフィクションのキャラが本当に好きなんだ……なぜ誰も教えてくれなかったんだ……

できるだけネタバレを踏まずに見に行こうと意気込んでいたので何も調べずに行ったら途中からミゲル・オハラに脳を支配されていた。こんなのがいるなんて聞いてなかったが???

自分の役割に倦んでいるが能力と責任の高さのせいで降りられずますます落ちていくという造詣がめちゃくちゃ好みだったし、彼に関してももちろん素質はあるんだろうけど、ヒーローであることから降りたいと周りの人間にきちんと言ってるのがかなり良かった、さっき言ってた弱さをガッツリ出していたので。

普通にマイルスに対して導く大人ではなく自己嫌悪から当たり散らかしていたのもピーターとの対比が意識されてたよな、多分。家族を手に入れた男と手からこぼれ落ちた男、師匠と管理者、いい対比だった。次作までに休職するかきちんと話を聞いてくれる人間に巡り合ってくれと思うけど多分より感情が煮詰まった状態でお出しされるんだろうな…それはそれで楽しみ。

 

前作に引き続きピーターは弱さを見せられる大人だったし(戦場に幼児を連れていくのはマジでやめてください)、パヴィトルくんはかっこかわいらしく、ホービーはずるいくらいカッコよくてそこら辺ももちろん楽しめた。

吹き替えは自分がアニメ畑で育ったのもあるが知ってる声に囲まれる安心感がすごかった。いつもありがとうございます……。宮野ピーターは前作からすごいハマり役で感動的ですらあったが、今作は鳥海スポットがかなりツボだった。独特の浮遊感のある声が俗世からどんどん離れていって最終的に手の届かないところに行ってしまう怪物としてのスポットにピッタリだった。関係がない話になってしまうが1の中村ピーターはザ・洋画の中村悠一声の爽やか最強ヒーローで、それを聞けただけでかなり満足してしまえるくらいなのでぜひ吹き替えでも見てほしい。

マイルスとグウェンに関して全然話せてないが、メインのストーリーだったのでもちろん満足感はあったのだがロマンスが混ざるとちょっと距離を感じてしまうのでそこに関しては語れることがあんまりない。逆にグウェンと父親の別離から和解までのシーンたちは普通に泣きそうになったが。年々涙腺が緩むというのは本当なんですね。